健康診断の結果で「血糖値」や「HbA1c」という言葉に不安を感じたことはありませんか?これらの数値は、あなたの健康状態を映し出す大切なサインですが、その違いや意味は意外と知られていません。
実は、単なる高血糖だけでなく、食後の急激な血糖値変動「血糖値スパイク」が血管にダメージを与え、心筋梗塞や脳梗塞、失明といった重い合併症のリスクを高める可能性があります。実際に、2型糖尿病と診断されたばかりの患者さんの約34%に、既に神経障害が見つかっているという報告も。
この記事では、血糖値とHbA1cの重要な違いから、見落としがちな危険、そして今日からできる予防・改善策まで、医師が分かりやすく徹底解説。あなたの健康な未来を守るため、ぜひ最後までお読みください。
血糖値とHbA1c 違いと検査の基本
健康診断の結果を見て、「血糖値」や「HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)」という言葉に不安を感じたことはありませんか?これらの数値が何を意味し、私たちの体にどのような影響があるのか、わかりにくいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。このページでは、血糖値とHbA1cの重要な違いや、それぞれの正常な値、そして検査の基本的なことを、小学生にもわかるようにやさしくご説明します。ご自身の体の状態を正しく理解し、安心して健康な毎日を送るための一歩として、ぜひ最後まで読んでみてください。
血糖値は「瞬間」HbA1cは「過去」の血糖値を反映
血糖値とHbA1cは、どちらも血液の中にある「ブドウ糖」という糖の量を測る検査です。しかし、この二つには、それぞれが示す「いつの時期」のブドウ糖の量なのか、という点で大きな違いがあります。
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血糖値
- 血糖値は、血液の中に溶けているブドウ糖の量を、その時その瞬間に測ったものです。
- 食事をすると、体に入った食べ物がブドウ糖に変わり、血糖値はぐんと上がります。
- その後、運動をしたり、時間が経ったりすると血糖値は下がっていくのです。
- これは、血糖値が「今の」あなたの体のブドウ糖の状態を映し出す鏡のようなものだからです。
- 例えば、朝ご飯を食べる前と、食べた後に測った血糖値では、数値が大きく変わるのが普通です。
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HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)
- HbA1cは、赤血球という血液の中にある赤い細胞の中の「ヘモグロビン」というタンパク質に、ブドウ糖がどれくらいくっついているかを示す数値です。
- 赤血球は、私たちの体の中で約3~4ヶ月間生きている細胞です。
- この赤血球の寿命と関係しているので、HbA1cの数値は、過去1~2ヶ月間の平均的な血糖値の状態を教えてくれます。
- つまり、一時的に血糖値が上がったり下がったりしても、HbA1cはあまり影響を受けません。
- 長い期間の血糖のコントロール状態を知る上で、とても大切な指標なのです。
- 例えば、お薬のせいで一時的に血糖値が高くなる場合でも、HbA1cは過去の平均を示すため、すぐに大きな変化は出にくい特徴があります。
- このことは、動物の医療分野でも研究されています。
- ある研究では、特定の治療を受けている犬の場合、一時的に血糖値が上がることがあっても、HbA1cの数値には大きな変化が見られないことがわかっています。
- これは、HbA1cが安定した長期的な指標であることを教えてくれる良い例だと言えるでしょう。
それぞれの正常値・基準値は?健康診断の見方
ご自身の健康診断の結果を見る際に、「この数値は大丈夫かな?」と心配になる方もいるでしょう。血糖値とHbA1cには、それぞれ健康な状態を示す目安となる数値と、糖尿病の可能性があることを示す基準値があります。
1. 血糖値の正常値・基準値
血糖値は食事の影響を大きく受けるため、検査を受けるタイミングによって、目安となる値が少し変わります。
- 空腹時血糖値(食事をしてから10時間以上、何も食べていない状態)
- 正常な目安:100mg/dL(ミリグラム・パー・デシリットル)より低い
- 糖尿病の可能性を疑う値:126mg/dL以上
- 食後2時間血糖値(食事を始めてから2時間後に測った血糖値)
- 正常な目安:140mg/dLより低い
- 糖尿病の可能性を疑う値:200mg/dL以上
- 随時血糖値(食事の時間に関係なく、いつでも測れる血糖値)
- 正常な目安:特に明確な基準はありません。
- ただし、明らかに高い場合は注意が必要です。
- 糖尿病の可能性を疑う値:200mg/dL以上
2. HbA1cの正常値・基準値
HbA1cは、過去1~2ヶ月の平均的な血糖値を教えてくれるので、食事の影響を受けにくいのが特徴です。いつでも測ることができます。
- 正常な目安:6.0%(パーセント)より低い
- 糖尿病の可能性を疑う値:6.5%以上
健康診断でこれらの基準値を超えている場合、もしかしたら糖尿病の疑いがある、あるいは糖尿病になる手前の「予備群」という状態であるかもしれません。医師から詳しい検査を勧められた場合は、必ず病院を受診してください。病気を早く見つけ、適切な対応を始めることが、これから先も健康でいるためにとても大切なのです。
検査方法と検査頻度 定期的なチェックの重要性
血糖値やHbA1cの検査は、糖尿病を早く見つけたり、すでに糖尿病の治療をしている方の健康管理には、なくてはならないものです。どのような方法で、どのくらいの頻度で検査を受けるべきかを知っておきましょう。
1. 検査方法
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血糖値の検査
- 採血による検査
- 病院で腕の血管から血液を少し取って調べます。
- 食事を食べていない時(空腹時)や、食事をした後など、決まったタイミングで測ることで、その時の血糖値を正確に知ることができます。
- 自己血糖測定器
- 指先に細い針で小さな穴を開け、そこから出た少量の血液をご自身で測る機器です。
- 糖尿病と診断された方が、日々の血糖コントロールのためにご自宅で行うことが多いです。
- 持続血糖モニタリング(CGM)
- これ以外にも、もっと詳しく血糖値の動きを知るために「持続血糖モニタリング(CGM)」という方法があります。
- これは、小さなセンサーを体の皮膚に貼り付け、数分おきに自動で血糖値を測り、記録し続けるものです。
- CGMを使うと、食事が終わった後や寝ている間の血糖値の上がり下がりがグラフでわかるようになります。
- ふだんの採血だけではわからない、血糖値のくせや傾向を詳しく知ることができるのです。
- このように詳しいデータは、特に1型糖尿病(いちがたとうにょうびょう)など、特定の糖尿病のリスクが高い方にとって、病気の早期発見や日々の管理に役立つと注目されています。
- 最近の研究では、CGMのデータと「遺伝子情報」(体の設計図のようなもの)を組み合わせることで、さらに正確に病気のリスクを予測できるようになる可能性が示されています。
- 採血による検査
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HbA1cの検査
- 採血による検査
- 血糖値と同じように、病院で血液を採取して調べます。
- 食事の影響を受けないので、食前でも食後でも、いつでも測定が可能です。
- 採血による検査
2. 検査頻度
- 健康な方
- 健康な方でも、年に一度は必ず健康診断を受けて、血糖値やHbA1cのチェックをしましょう。
- 糖尿病の疑いがある方や予備群の方
- 医師の指示に従い、数ヶ月に一度など、定期的に検査を受けることがとても大切です。
- 糖尿病と診断された方
- 治療の計画に基づいて、毎月、または数ヶ月に一度のHbA1c検査や、ご自宅での自己血糖測定などを続けていくことになります。
定期的に検査を受けることは、病気を早く見つけるだけでなく、病気が進むのを防いだり、将来的な合併症(ほかの病気を引き起こすこと)を防ぐためにも、非常に重要なことです。
短期的な血糖変動「血糖値スパイク」の危険性
「血糖値スパイク」という言葉を聞いたことはありますか?これは、食事をした後に血糖値が急に上がり、その後また急に下がるという、まるで山と谷のような血糖値の動きを指します。健康診断で測る血糖値やHbA1cが「正常範囲内」だったとしても、実はこの血糖値スパイクが起きている場合があるのです。
血糖値スパイクとは
健康な方の体では、食事をしても血糖値はゆっくりと上がっていきます。そして、体の中で作られる「インスリン」というホルモンの働きによって、血糖値もゆっくりと下がっていくのが普通です。しかし、血糖値スパイクが起きる方は、食後に血糖値が一時的にものすごく急上昇し、時には糖尿病と診断されるくらいの高い値になることもあります。その後、急激に血糖値が下がり、中には「低血糖(ていけっとう)」のような、血糖値が下がりすぎる状態になる方もいます。
血糖値スパイクの危険性
この急激な血糖値の上がり下がりは、私たちの体にとって大きな負担となります。放っておくと、様々な病気につながる危険性があるのです。
- 血管へのダメージ
- 血糖値が急に上がると、血管の内側にある「内皮細胞」という部分に傷がつきやすくなります。
- この傷がきっかけとなり、「動脈硬化(どうみゃくこうか)」という血管が硬くなる病気が進んでしまうことがあります。
- 動脈硬化は、心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳梗塞(のうこうそく)といった、命に関わる重い病気のリスクを高くしてしまいます。
- インスリンの過剰分泌(かじょうぶんぴつ)
- 血糖値が急に上がると、体は血糖値を下げようとして、膵臓(すいぞう)という臓器からインスリンを大量に出します。
- この状態が何度も続くと、膵臓にとても大きな負担がかかってしまいます。
- その結果、インスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性(ていこうせい)」や、インスリンを作る能力自体が弱ってしまうことにつながります。
- 肥満や体重増加
- インスリンには、使われなかった余分なブドウ糖を「脂肪(しぼう)」として体に蓄える働きがあります。
- 血糖値スパイクによってインスリンが大量に出されると、脂肪が体にたまりやすくなり、肥満や体重が増える原因になる可能性があります。
- 体に感じる症状
- もし、食事をした後に、急に強い眠気を感じたり、だるくなったり、集中力が続かなくなったり、手が震えるような感じがするなら、血糖値スパイクが起きているサインかもしれません。
- これらの症状に心当たりのある方は、一度食後の血糖値を測ってみることをおすすめします。
血糖値スパイクは、普段の健康診断では見つけにくいことがあります。しかし、長期的に見ると、あなたの健康に大きなリスクをもたらす可能性を秘めています。食事の内容や食べ方を少し工夫するだけで、血糖値スパイクを抑えることができます。例えば、野菜や海藻類を食事の最初に食べる、炭水化物(ご飯やパンなど)ばかりの食事を避ける、ゆっくりよく噛んで食べる、などの簡単な工夫がとても有効です。
血糖値・HbA1cの異常値が示す3つの危険信号
健康診断の結果で、もし血糖値やHbA1cの数値に「異常あり」と書かれていたら、あなたはどのように感じますか?不安になる気持ちはよく分かります。しかし、これらの数値の異常は、あなたの体が発している「大切なサイン」と捉えてください。このサインに気づき、早めに対応することで、私たちは健康な毎日を守ることができます。
ここでは、高すぎる、あるいは低すぎる血糖値が示す具体的な危険と、それが将来どんな病気につながる可能性があるのかを、一緒に見ていきましょう。
高血糖・低血糖で現れる具体的な症状と初期サイン
血糖値が正常な範囲から大きく外れると、私たちの体には様々な不調が現れます。特に、異常値が続くと大きな病気につながることもありますので、初期のサインを見逃さないことがとても大切です。
1. 高血糖で現れる具体的な症状
血糖値が高い状態が長く続くと、体はブドウ糖をエネルギーとしてうまく使えなくなります。その結果、以下のような症状が現れることがあります。
- いつも以上にのどがカラカラになる
- 体は余分な糖分を外に出そうと、たくさんの水分を必要とするためです。
- トイレに行く回数が増える
- 糖分を尿として出すために、おしっこの量が増え、トイレが近くなるのです。
- 疲れやすい、なんだかだるい
- 体がブドウ糖をエネルギーにうまく変えられないため、力が出ないように感じます。
- 急に体重が減ることがある
- エネルギー不足を補うため、体の筋肉や脂肪が使われてしまうためです。
- 集中力が続かない
- 脳に大切なブドウ糖がしっかり届かなくなるため、頭がぼんやりすることがあります。
- 手足がしびれる、感覚が鈍くなる
- 高い血糖値が長く続くと、手足の神経が傷ついてしまうことがあるからです。
2. 低血糖で現れる具体的な症状
反対に、血糖値が急激に下がりすぎると、脳へのエネルギーが足りなくなり、体は危険な状態になります。
- 冷や汗がダラダラ出る
- 体が血糖値を上げようと、自律神経という仕組みが強く働くためです。
- ドキドキと動悸がする
- 心臓が全身に血液を急いで送ろうとして、速く打つように感じます。
- 手が震える、足元がフラフラする
- 脳や神経の働きが不安定になり、体がうまくコントロールできなくなるためです。
- 強い空腹感がある
- 体がエネルギーを「もっとくれ!」と強く求めているサインです。
- めまいやふらつきが起こる
- 脳への血流が一時的に低下することで、意識がぼんやりすることもあります。
もし、これらの症状に心当たりがある場合は、決して「これくらいなら大丈夫」と自己判断せずに、すぐに医療機関を受診して、私たち医師にご相談ください。早期に気づくことが、あなたの体を守る第一歩になります。
糖尿病の診断基準と種類 1型・2型・妊娠糖尿病
糖尿病は、血糖値を下げる「インスリン」というホルモンの働きが十分でなくなることで、血糖値が高い状態が続いてしまう病気です。糖尿病かどうかを診断するには、いくつか大切な検査の基準があります。
1. 糖尿病の診断基準
一般的に、以下の検査結果を総合的に見て判断します。
- 空腹時血糖値
- 10時間以上何も食べていない状態で、血液中のブドウ糖が126mg/dL以上の場合です。
- 75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値
- 甘いブドウ糖の水を飲んで2時間後の血糖値が、200mg/dL以上の場合です。
- HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)
- 過去1〜2ヶ月の平均的な血糖値が6.5%以上の場合です。
- 随時血糖値
- 食事の時間に関係なく測った血糖値が200mg/dL以上で、同時に糖尿病特有の症状(のどの渇き、体重減少など)がある場合です。
これらの項目が当てはまる場合や、複数回異常値が続く場合には、糖尿病と診断されることになります。
2. 糖尿病の種類
糖尿病には、主に3つのタイプがあります。ご自身の体の状態を理解するために、それぞれの特徴を知っておきましょう。
- 1型糖尿病
- 膵臓(すいぞう)の中にある、インスリンを作る細胞が壊されてしまい、ほとんどインスリンが作られなくなるタイプの糖尿病です。
- 自分の体を守るはずの免疫の仕組みに、少し間違いが起こってしまうことが原因と考えられています。
- 子どもから大人まで、どの年齢でも発症する可能性があります。
- インスリン注射が、このタイプの治療には欠かせません。
- 2型糖尿病
- インスリンの量が少なかったり、インスリンが体の中で効きにくかったりすることで起こるタイプの糖尿病です。
- ご家族に糖尿病の人がいるといった「遺伝的な要因」に加えて、食べすぎや運動不足、肥満などの「生活習慣」が大きく影響します。
- 日本人の糖尿病患者さんの多くが、この2型糖尿病に当てはまります。
- まずは食事の改善や運動が基本となり、必要に応じてお薬を使う治療も行われます。
- 妊娠糖尿病
- 妊娠中に初めて見つかる、あるいは発症する糖尿病のことです。
- 妊娠中は、赤ちゃんを育てるためのホルモンの影響で、インスリンが効きにくくなることが主な原因です。
- お母さんの体だけでなく、お腹の赤ちゃんの成長にも影響を与えることがあるため、専門的な管理が非常に大切です。
- ほとんどの場合、出産後に血糖値は元に戻りますが、将来的に2型糖尿病になりやすいことがわかっています。
これらのタイプの違いを知り、ご自身の状態に合わせた治療と管理を続けることが、健康な未来のためにとても重要です。
放置すると進行する合併症 腎症・網膜症・神経障害
血糖値が高い状態が長く続くと、体のあちこちにある細い血管や大切な神経が傷つき、様々な合併症を引き起こします。特に注意が必要なのが「三大合併症」と呼ばれる腎臓の病気、目の病気、神経の病気です。
- 糖尿病性腎症(じんしょう)
- 腎臓という、体のいらないものをろ過して外に出す大切な臓器の、細い血管がダメージを受けてしまいます。
- 初期の段階では、自分で気づく症状はほとんどありません。尿の中にタンパク質が混じることで見つかることが多いです。
- 病気が進むと、顔や足がむくんだり、血圧が高くなったりします。最終的には、腎臓がほとんど機能しなくなり、人工透析(じんこうとうせき)という、機械を使って血液をきれいにする治療が必要になることもあります。
- 定期的な尿検査や血液検査で、この病気を早く見つけ、早く治療を始めることが大切です。
- 糖尿病性網膜症(もうまくしょう)
- 目の奥にある「網膜(もうまく)」という、光を感じる大切な部分の血管が傷つくことで起こる病気です。
- 初期には自覚症状がないことが多く、病気がかなり進行してから「目がかすむ」「視力が下がった」などの症状に気づく方も少なくありません。
- そのままにしておくと、失明に至る可能性もあります。
- 糖尿病と診断されたら、たとえ目に何も異常を感じなくても、定期的に眼科を受診して、目の健康状態をチェックすることが欠かせません。
- 糖尿病性神経障害(しんけいしょうがい)
- 血糖値が高い状態が続くことで、手足の神経が傷ついてしまう病気です。
- 手足のしびれや痛み、感覚が鈍くなる、冷えなどの症状が現れます。
- 足の感覚が鈍くなると、小さな傷や水ぶくれに気づきにくくなり、気づかないうちに悪化してしまいます。ひどい場合には、足の指や足そのものの切断が必要になることさえあります。
- 新しい研究報告によると、2型糖尿病と診断されたばかりの患者さんの約34%に、すでに糖尿病性末梢神経障害が見つかっていることがわかっています。
- さらに、この神経障害は、年齢が高い方、HbA1cの数値が高い方、高血圧がある方、そしてBMIが低い(痩せている)方と特に関連が深いことも示されています。
- このことから、血糖値だけでなく、血圧の管理も重要であり、早期に神経障害を見つけるためのチェックが非常に大切だと言えるでしょう。
これらの合併症は、血糖値のコントロールが悪いほど、残念ながら進みやすくなります。日頃からHbA1cの値を目標の範囲に保つこと、そして定期的な検査を受けることが、将来の合併症を防ぐために非常に重要なことなのです。
膵炎後糖尿病など見落としがちな糖尿病の原因
糖尿病は「生活習慣病」としてよく知られていますが、実は生活習慣だけでなく、他の病気が原因で糖尿病になることもあります。見落とされがちなこれらの糖尿病についても、ぜひ知っておいてください。
1. 膵炎後糖尿病(PPDM:ピーピーディーエム)
これは、膵臓に炎症が起こる病気である「膵炎」にかかった後に発症する糖尿病です。膵炎によって膵臓の細胞がダメージを受けてしまうと、インスリンを作る働きが低下し、血糖値が上がってしまうのです。PPDMは、一般的な2型糖尿病とは少し異なる特徴を持つことがあります。
- 原因
- 急に起こる急性膵炎や、長く続く慢性膵炎の後に発症します。膵臓の炎症がおさまっても、インスリンを作る細胞が完全に回復せず、機能が弱ってしまうためです。
- 特徴
- 一般的な2型糖尿病よりも、体重が減りやすい傾向があったり、消化酵素の不足によって栄養の吸収が悪くなったりすることがあります。
- 新しい研究では、PPDMの診断や管理には、血糖値やHbA1cだけでなく、Cペプチド(シーペプチド:インスリンがどれくらい作られているかを示す値)や、インスリン抵抗性指数(インスリンの効きやすさを示す値)、膵臓の機能検査など、特別なバイオマーカー(体の状態を示す目印)が役立つとされています。
- また、体重増加、肥満、ご家族に糖尿病の方がいること(家族歴)、高血圧、高脂血症といった点が、PPDMの臨床的な特徴として挙げられています。
- 診断と管理
- 過去に膵炎を経験したことがある方は、たとえ糖尿病の典型的な症状がなくても、定期的に血糖値やHbA1cのチェックを受けることが非常に大切です。
- このように、早期にPPDMを発見し、その原因に合わせた適切な管理を行うことで、合併症のリスクを減らし、健康を守ることができます。
2. その他の二次性糖尿病
膵炎以外にも、以下のような原因で糖尿病を発症することがあります。
- ステロイド糖尿病
- アトピー性皮膚炎やリウマチなどの病気の治療で「ステロイド薬」というお薬を飲んでいる場合に、血糖値が上がることがあります。
- 特定の遺伝子異常による糖尿病
- 稀なケースですが、生まれつきの遺伝子の違いが原因で、膵臓のインスリンを作る機能がうまく働かずに発症することがあります。
- 内分泌疾患による糖尿病
- 甲状腺(こうじょうせん)や副腎(ふくじん)など、ホルモンを分泌する臓器の病気が原因で血糖値が上がることもあります。
このように、糖尿病には様々な原因が隠されていることがあります。見落とされがちな原因によって発症した糖尿病も、早く見つけて、その原因に合わせた治療と管理を行うことが、健康を守る上で非常に重要です。もし気になる症状やご心配なことがあれば、私たちかかりつけの医師にいつでもご相談ください。
糖尿病を予防・改善する3つの生活習慣と治療の進め方
糖尿病と診断されたり、血糖値が高めだと指摘されたりすると、不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、糖尿病は、適切な生活習慣と治療を続けることで、症状を良い状態に保ち、将来の合併症を防ぐことができる病気です。あなたの健康的な毎日を長く送るために、今日からできる予防と改善の具体的なステップを一緒に見ていきましょう。
血糖値コントロールの基本 食事療法と食生活のコツ
糖尿病の治療や予防において、食事はとても重要な役割を果たします。食事療法は、「これを食べてはいけない」というものではありません。「何を、どれだけ、どのように食べるか」がポイントになります。難しく考えずに、少しずつ食習慣を変えていくことから始めてみましょう。
- バランスの良い食事を心がけましょう
- 炭水化物(ごはん、パン、麺類など)、たんぱく質(肉、魚、卵、大豆製品など)、脂質をバランス良く摂ることが大切です。
- 特に、食物繊維が豊富な野菜、きのこ、海藻類を積極的に取り入れましょう。
- 食物繊維は、食後の血糖値が急に上がるのを抑える効果が期待できます。
- 適切な量を守りましょう
- 一人ひとりの体格や活動量に合わせた食事の量を守ることが重要です。
- 食べすぎは血糖値を上げる大きな原因となりますので注意が必要です。
- 主食の量を調整したり、間食を控えたりすることから始めてみましょう。
- 食べる順番と時間にも工夫を
- 食物繊維の多い野菜から食べ始め、次に肉や魚などのたんぱく質を摂りましょう。
- 最後にごはんなどの炭水化物を摂ることで、食後の血糖値の急上昇を穏やかにすることができます。
- 食事はできるだけ規則正しい時間に摂り、ゆっくりよく噛んで食べることを意識してみてください。
外食や市販のお弁当を利用する際には、野菜が豊富なメニューを選んだり、ごはんの量を少なめにしてもらうなどの工夫も有効です。もし具体的な食事内容で迷った時には、管理栄養士に相談して、あなたに合った食事プランを立ててもらうこともできます。
無理なく続けられる運動療法 始める際の注意点
運動療法は、食事療法と並び、糖尿病の予防や改善に欠かせない要素です。運動によって体内のブドウ糖の利用が促進され、血糖値が下がりやすくなります。さらに、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きが良くなる(インスリン感受性が向上する)効果も期待できます。
運動は血糖値を下げるだけでなく、心臓や血管の病気のリスクを減らすことにもつながります。
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運動療法の始め方と種類
- 有酸素運動: ウォーキング、軽いジョギング、水泳、サイクリングなどが代表的です。
- これらの運動は、脂肪を燃焼させ、血糖値を下げる効果が高いとされています。
- 無理のない範囲で、少し息が弾む程度の速さで、1回20~30分、週に3~5回を目安に続けると良いでしょう。
- 筋力トレーニング: スクワットや腕立て伏せなど、ご自身の体重を利用した運動でも十分です。
- 筋肉が増えると、ブドウ糖をエネルギーとして消費する能力が高まります。
- 週に2~3回、全身の大きな筋肉を意識して行いましょう。
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運動を始める際の注意点
- 運動を始める前には、必ず私たち医師に相談し、ご自身の体の状態に合った運動メニューについてアドバイスをもらうことが大切です。
- 特に、合併症がある場合や、心臓病などの持病がある場合は注意が必要です。
- 運動中や運動後に血糖値が下がりすぎる「低血糖」にも注意してください。
- いざという時のために、ぶどう糖などを用意しておくと安心です。
- 無理せず、楽しみながら続けられる運動を見つけることが、運動療法を成功させるための鍵となります。
薬物療法(飲み薬・インスリン注射)の種類と副作用
食事療法や運動療法だけでは血糖値のコントロールが難しい場合、薬物療法が検討されます。薬物療法には、飲み薬とインスリン注射があり、患者さんの病状やライフスタイルに合わせて使い分けられます。私たち医師とよく相談し、ご自身に合った治療法を選びましょう。
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飲み薬の種類と働き
- 飲み薬には、インスリンの分泌を促すもの、インスリンの効きを良くするもの、糖の吸収や排泄を調整するものなど、いくつかの種類があります。
- SU薬(スルホニル尿素薬): 膵臓(すいぞう)に働きかけ、インスリンの分泌を強く促します。
- 例えば、一般的な2型糖尿病の治療で用いられることがありますが、中には「単一遺伝子型糖尿病」と呼ばれる、遺伝子の異常によって起こる特殊なタイプの糖尿病があります。
- この単一遺伝子型糖尿病のうち、「HNF1A糖尿病」というタイプでは、SU薬が非常に効果的であるという報告があります。
- ビグアナイド薬: 肝臓からの糖の放出を抑えたり、インスリンの効きを良くしたりします。
- DPP-4阻害薬: 血糖値を下げるホルモンの働きを高め、インスリンの分泌を促します。
- SGLT2阻害薬: 腎臓での糖の再吸収を抑え、尿と一緒に糖を体外に出すことで血糖値を下げます。
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インスリン注射の種類と働き
- インスリン注射は、体内で十分なインスリンが作れない場合や、飲み薬だけでは血糖コントロールが難しい場合に行われます。
- 速効型、中間型、混合型、持効型などいくつかの種類があり、患者さんの血糖変動パターンに合わせて使い分けられます。
- ある研究報告によると、「HNF1B糖尿病」や「m.3243A>G変異によるミトコンドリア性糖尿病(MD)」といった特殊なタイプの糖尿病では、飲み薬だけで血糖値をコントロールすることが難しく、多くの患者さんでインスリン治療が必要となることが示されています。
- これらのタイプの糖尿病では、インスリン治療から飲み薬への切り替えを試みても、うまくいかないケースが多いこともわかっています。
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副作用について
- どの薬にも副作用の可能性はありますが、主なものとして、低血糖(特にSU薬やインスリン)、吐き気、下痢などがあります。
- 副作用が気になる場合は、自己判断で服薬を中断せずに、必ず私たち医師や薬剤師に相談してください。
- 適切に薬を使用することで、血糖値を安定させ、合併症のリスクを減らすことができます。
専門医との連携とセルフケアで健康寿命を延ばす
糖尿病の治療は、私たち医師任せにするだけでなく、患者さん自身が積極的に治療に参加する「セルフケア」が非常に重要です。そして、専門医との連携が、あなたの健康寿命を延ばす鍵となります。
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専門医との連携の重要性
- 糖尿病は全身に影響を及ぼす病気であるため、定期的な受診で血糖値やHbA1cのチェックはもちろん、合併症の有無を早期に発見することが大切です。
- ある研究報告では、新しく2型糖尿病と診断されたばかりの患者さんのうち、約34%にすでに「糖尿病性末梢神経障害(DPN)」が見つかっていることがわかっています。
- 糖尿病性末梢神経障害とは、血糖値が高い状態が長く続くことで、手足の感覚が鈍くなったり、しびれたりする病気のことです。
- さらに、この神経障害は、年齢が高い方、HbA1cの数値が高い方、高血圧がある方、そしてBMIが低い(痩せている)方と特に関連が深いことも示されています。
- このことから、血糖値だけでなく、血圧の管理も重要であり、早い段階から神経障害を見つけるためのチェックが非常に大切だと言えるでしょう。
- 糖尿病専門医は、このような最新の知見に基づき、あなたの病状に合わせた最適な治療計画を提案してくれます。
- また、管理栄養士や看護師、薬剤師などの専門職とも連携し、食事指導や運動指導、薬の正しい使い方など、多角的にサポートしてくれます。
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具体的なセルフケア
- 血糖自己測定: 医師の指示に従い、自宅で血糖値を測定し、日々の血糖変動を把握しましょう。
- 合併症のチェック: 目の合併症(網膜症)のために定期的な眼科受診を、腎臓の合併症(腎症)のために尿検査を行いましょう。
- 足の合併症(神経障害、壊疽)のためにはフットケアが必要です。
- 足の小さな傷や変色にも注意が必要です。
- 生活習慣の見直し: 食事や運動の記録をつけて、振り返ることで、より良い生活習慣へと改善していくことができます。
専門医や医療チームと協力しながら、ご自身の体の状態を理解し、前向きにセルフケアを続けることが、糖尿病と上手に付き合い、健康寿命を延ばすことにつながります。もしご自身の治療方針に疑問を感じた場合は、セカンドオピニオンを求めることも選択肢の一つです。
まとめ
今回は、血糖値とHbA1cがそれぞれ何を意味し、健康にどう影響するのかを詳しくご紹介しました。血糖値は「今の瞬間」、HbA1cは「過去1〜2ヶ月の平均」の血糖値を教えてくれる、大切な指標です。これらの数値を知ることは、糖尿病の早期発見や日々の体調管理に欠かせません。
もし健康診断で気になる数値があったり、食後に急な眠気やだるさを感じたりする場合は、血糖値スパイクの可能性もあります。高すぎる、あるいは低すぎる血糖値が長く続くと、腎臓病、目の病気、神経の障害など、さまざまな合併症のリスクが高まってしまいます。
ご自身の健康を守るために、不安を感じたらまずは私たち医師に気軽に相談し、定期的な検査で体のサインを見逃さないようにしましょう。そして、バランスの取れた食事や無理のない運動など、今日からできる生活習慣の改善を始めてみませんか。あなたらしい健康で安心な毎日を送るための一歩を踏み出しましょう。
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著書紹介:渡邊 智 院長
秋田大学医学部卒業後、横浜労災病院内分泌糖尿病センターや東京女子医科大学病院などで、糖尿病・高血圧・甲状腺疾患を中心とした最先端の診療に従事。 現在は東伏見駅前内科糖尿病クリニックの院長として、高度医療機関で培った知見を地域へ還元している。「糖尿病」と「内分泌」の専門医として、専門的な管理から日常的な不調まで、患者一人ひとりに寄り添ったきめ細やかな診療を行う。
資格・学会
- 日本糖尿病学会糖尿病内科専門医
- 日本内分泌学会内分泌代謝科(内科)専門医
- 日本内科学会 認定内科医


